夢でない夢が覚めるはずがない。
いつもと同じように朝はやってくるものだ。
結局上田からなにも聞き出せなかった僕は、教科書を借りるのも忘れ、無駄な時間を過ごしてしまった。
テストまでの日数とやらなければならない問題集、範囲を思うとやりたいことの半分もできないことを知り、1週間も予備校をサボっていたことを後悔していた。
気持ちとは裏腹にがんばってる自分は、なんだか複雑。
同じ朝は今日も来る。
昨日の夜、考え事をしていた僕はなかなか寝つけず、少々寝不足。
そんな人の気なんて知らずに、マンションを降りていくとそこに立っていたのはやっぱり上田で、いつもの4人はやっぱり呼ばれるまで出てこなくて。
いいわけなんてもう聞き流して、上田をつかまえる。
「おい。」
小声で問いかける。
「昨日の、結局お前なんにも答えてねぇじゃん。家のことはいいけど何がおめでとうなのか全然わかんないんだけど。」
「あー‥‥。」
「お前んち魔法使い?超能力者?Mr.マリック?みえるのは俺だけじゃないよな?」
「んー‥‥。」
「俺は見ちゃいけないものをみてしまった?」
「うー‥‥。」
「なんで俺はみえた?」
「えー‥‥?」
「あー!もー!うぜぇ‥」あいまいな返事の上田にキレかかったとき。
「なにがみえるの?」
話に割り込んできたのは仁だった。
寝癖なのか。仁の後ろの髪はまだハネている。
「ねーなにがみえんのー?の・ぞ・き?うわー!」
今日も朝からハイテンション。
大声を出すもんだからコウキたちまで寄ってくる。
「どしたの?」田口。
「中丸がね、のぞきしたんだって。」と仁。
「違ぇよ!そりゃおめぇだろ!」
「オレはのぞかないもん!女の子から寄ってくるの!」
「どっちも一緒じゃん‥‥。」ため息まじりにコウキ。
「一緒にすんな!」わめく仁をさえぎり「ホントはなんなの?」とカメ。
「みんなに言っちゃえば?」のん気な上田。人事かよ。
「言わなきゃ伝わらないこともあるんだぞ。」
仁っておいしい性格だと思う。
他の人にいわれたらむかつくことでも仁が言うと悪気がなく聞こえるから不思議なもんだ。
「言うとスッキリするよ。」
「吐け!さぁ吐け!」
「お前らただ聞きたいだけなんだろ?」
責め寄ってくるカメやコウキにそう言うと「当たり前じゃん。」と口をそろえていった。
流されやすい僕はとうとう洗いざらしに話してしまったのでした。
「超便利‥‥‥。」
学校までの長い道のりが今日はとても短く感じた。
それは昨日と1週間前のことをみんなに話しながらだったからかもしれない。
話し終わった瞬間の反応がこれだった。
「中丸‥‥それ、超便利じゃん‥‥。」
なかでも一段と目を光らせていたのが仁。
「ウッソくさぁ。」まるで信じないコウキみたいなヤツもいれば、「なんでだろう‥。」と真剣に考えてくれる田口もいる。
僕はこういう答えが欲しかったんだよね。
「ずるい!ずるいよ!なんで中丸だけ!?便利だよ!オレもそれ欲しいー!」
興奮の冷めない仁は「便利」と「ずるい」を連発。
「何がずるいだよ。こっちは見たくもねぇもんまでみえるんだぞ!?」
「だってなんでもみえるんでしょ!?」
「なんでもじゃねぇよ。」
「テストの答えみれるじゃん!」
「‥‥‥。」
その場の音が一瞬なくなる。
「‥‥そりゃ便利だわ。」カメがつぶやく。
「仁もたまにはいいこと言うじゃん。」コウキも同意。
「中丸がさ、ちょちょいとテストの答えみてくれたらオレら勉強しないでいい点とれるでしょ?もしバレても怒られるのは中丸だからいいでしょ?‥‥なんて言うんだっけ。"イチイシニトリ"?」
「仁くん"イッセキニチョウ"だよ。」
「あ、うん。それ。ほら!オレあぶないでしょ?ね?中丸お願い!お弁当食べてあげてるでしょ!」
「別に俺が頼んだわけじゃないしー。」
すっごい。今の俺って頼りにされてるかもしんない。
あながち僕も少し思っていたことだからまったくの反対じゃあないし。
それに仁のあぶないは半端じゃなくあぶないので少々気がかりだった。
「‥‥今回だけね。」
「あ、じゃあ俺も。」
「んじゃコウキ、それ教えてね。」カメまで。
「えーやめなよ。見つかったらどうするの。」
阻止するのは田口の役目。
「逃げる。」
即答するのは仁。
「僕知らないからね。」
「僕も。」
上田と田口はこの作戦には反対らしい。
「じゃー明日くらいにはテストもう出来てるでしょ。明日行こう。」
「ばっか!早ぇよ!」
「だってオレそんな1日や2日じゃ覚えらんないもん!」
「はい、じゃー明日決行ー。」
即座に決められてしまった秘密の作戦。
うまくいくとは思えないけど。仁のため、みんなのため、そして自分のため。
やるしかないと思った。