確か。あれは三日月がとても綺麗な日だったと思う。

僕たち5人があの人たちに会ったのは。

まだ小学生だった僕らには『大人』に見えた。

そして僕らはその6人の大人たちから、『何か』をもらった。

カタチのない、あたたかいモノを。






その10日後ぐらい。

僕の住んでいるマンションの隣の部屋にアイツが越してきた。

両親らしき若い男女と、姑かなんかのおばあさん。

そして、アイツ。

僕がちょうど遊びに行こうと部屋を出たときに目が合った。

荷物を部屋の中へ忙しく入れている母親に

「ホラ、たっちゃん。ごあいさつなさい。」

と言われ、しぶしぶ僕に向かってこう言った。

「よろしく。」

白いシャツに黒い半ズボン。

当時の僕にとってお坊ちゃまなイメージのアイツは、

見た目とは大違い。ぶっきらぼうだった。






この出会いが、僕らに貴重な体験をさせてくれることになろうとは

まだ誰も気づきはしなかった。






西暦200X年。

あれから10年たった。

小学生だった僕も今では高校3年生。

一応僕らの中では最年長。

そろそろ受験も控え、2回目の悩み多き年頃となった。

大学。

親の期待は長男の僕にかかってるからプレッシャーが大きい。

それにいつも親は比べるから。

僕とアイツを。

「竜也くんは国立受けるんですって。すごいわよね。」

小さい頃からそうだ。

いつも親にほめられるのはアイツばっかで。

だから僕はあんまりアイツが好きじゃなかった。

のに。






「おはよ。」

いつものように朝、学校へ行く。

「‥はよ。」

いつものようにマンションの前で待ち合わせ。

だいたい決まってる。

僕が階段を降りていくといつも1番に来ているのがアイツだ。

「まだカメたちくる様子はなかった?」

と、時計を気にしながら聞いてくる。

「まだじゃない?部屋ん中静かだったし。」

僕はぶっきらぼうに答える。

最近よく言われる。

「中丸、愛想悪くなってない?」

原因はコイツだよ。

僕ははっきり言ってコイツが嫌いだ。

成績優秀、スポーツ万能、おまけに性格良し。

どこをとっても人に嫌われるような要素がないから初対面の人とでもすぐに仲良くなるし。

なんていうか。嫉妬。

「迎えにいく?カメたち。そろそろ時間やばいし。」

マンションの上のほうを見上げながらめんどくさそうな顔1つも見せないで僕に聞く。

「俺めんどくさいからここで待ってる。上田行ってきてよ。」と僕。

「うん。じゃあ行ってくる。」

これもお約束の1つだ。

上田は人の頼みを断ったことなんかない。

だから僕も、カメも仁も田口もコウキも。

わがままに育ってきた。

みんなはそんな上田が好きだ。

その中で、僕1人だけ上田を好きになれない。

1人で対抗意識を燃やしているんだ。






そんな僕の悩みをよそに、カメたちがきたのはあれから5分後だった。

「つーかお前ら遅すぎ。毎日何分待たせてんだよ。」

学校の登校中。

僕は4人に文句をぶつけた。

「だって母さんが朝メシなかなか作ってくれなかったんだもん。」カメの言い分。

「髪セットしてたし。」仁。

「ごめんなさい。」と素直な田口。

「遅刻しなかったらいいじゃん。別に。」コウキはナマイキ。

毎日毎日同じ言い訳の4人。

そろそろ飽きてくる。

うまれた時から上田を除く5人とはずっと同じマンションに住んでる。

幼稚園、小学校、中学校はもちろん高校まで同じとこ。

まるで僕のことを年上扱いしない奴ら。

「まぁ上田がこなかったら俺らずっと出られなかっただろうね。」とカメ。

ここでも上田はいい扱い。

カメは最年少のクセに態度がでかい。

高校入ってまだ1年もたたないというのに校則違反でつかまるのは日常茶飯事。

そのくせ動物にはメロメロな動物愛護少年。

「でも上田最近迎えにくるの早すぎ。まだ髪クセついてんのに。」不満気な仁。

どこか抜けてる高校2年生。

高校入試で1番やばかった人。

そして1番時間にルーズなオンナ好き。

「まぁ上田くんも毎日大変なんだし。感謝するべきなんじゃない?」

唯一僕と上田を年上として見ている田口。

自分のことより人を心配してしまうお人好し。

上田の次に成績良し。1年の中でも順位は1ケタ。すばらしい。

「俺上田が来るまで寝てたんだけど。」

出席日数が1番足りてないのがコウキ。

ちゃんと一緒に学校に行ってるハズなのに帰りには学校とは逆方向からやってくる遅刻早退の常習犯。

体育の授業のない日は教室にいないという話を聞いたことがある。

そして僕と、上田。

小さい頃からずっと6人で一緒だったから。

近所のおばさんたちにいっつも言われてた。

「ホンット、みんな兄弟みたいよね。」って。

そう言われ続けて10数年。

僕は、その6人から抜けそうな気がしてしかたがない。






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