「中丸、ホント僕のことキライだよね。」

学校到着。

3年の教室へと向かう途中、上田が笑いながら言った。

「‥‥またかよ。」

「だって‥。」

僕が上田を嫌いな理由、その2。

この不思議な能力。

ヒトの心を読むチカラ。

「中丸って僕にだけ態度ちがうじゃん。僕だけじゃなくてもきっとみんな気づいてるよ?」

「バレバレって言いたいわけ?」

「そうじゃないけど‥‥。」

わかってる。

上田の能力知ってるのは僕だけだし、

最近上田への態度がみんなと違うのも自分でもわかってる。

ただ。

ジェラシーというか、嫉妬というか、悔しさというか。

どうも態度にでてきてしまう。

隠そうとしても上田には隠せない。

「まぁいいけどさ。中丸が僕のことどう思ってても。あ、そうそう。今日もコウキはなんかするつもりでいるよ。朝、読んじゃったから。中丸止めさせとけば?」

ケロリとした顔でそう言うと上田は教室へ入っていった。






上田の言ったとおり。

授業が全部終わった頃、ふと校門に目をやるとどこかで見たようなヤツが警察と一緒に歩いていた。

その2人が校舎に近づいてくると教頭が警察に頭をペコペコ下げながら生徒を校舎の中へ入れる。

この光景も見飽きた。

コウキだ。

いつものパターンでいけば、授業を抜け出してゲーセンかなんかに行って、他校の生徒とケンカになったってやつだろう。

中学生の時からそれだから、コウキは強くてたくましい子に育ちました。

体を動かすことに関しては誰にも負けない。

通知表の体育の欄だけいつも評価が5だったのは近所でも有名な話だ。

そこで僕は朝上田が言っていたことを思い出す。

コウキが問題を起こす日はいつも上田が僕に忠告してくれる。

「止めさせとけば?」

そう言われて僕がコウキを止めた事なんて1度もない。

自分のことで精一杯。

今の僕に人の世話をするヒマなんてないし。






帰宅。

休む間もなく予備校へ。

夜遅くまで予備校でみっちり勉強したあと家に帰ってまた復習。

親は上田が国立を受けると知ってから遠まわしに僕にもいいとこへ行けみたいなことを言うようになった。

言えないけどすごくプレッシャーになってるんだから。

そして人の目も。

僕の父さんは有名大学の教授。

近ごろは父さんとは目を合わす気にもなれない。

目が合えば進路のことばっかり言う。

父さんも母さんも人の目が気になる、それだけの理由でうるさくなる。

「雄一、頼むから恥ずかしくないような大学に行ってくれよ。」

もう、毎日が嫌になる。

僕はなんのために大学へいくのだろう。

時々、遠い世界へ行ってしまいたくなる。

常識なんてモノがなくなってしまうような世界に。

上田の能力も不思議だとはいわないような世界へ。






次の日。

学校は休みだけど予備校はある日。

いつもより早目に家を出ると階段のところにカメがいた。

「あ、中丸だ。これから予備校?ガンバレ受験生。」

それだけ言うとまた僕に背を向けた。

「何やってんの?」と僕。

「かめの水替え兼日光浴。」

「楽しい?」

「うん。」

動物愛護少年。

カメにはこの言葉がピッタリだ。

捨てられている動物を見るとほっとけない性分で、カメの家には管理人の反対を無視して飼っている動物たちがワンサカ。

中でも1番のお気に入りがこの亀の『かめ』だそうだ。

紛らわしいから他の名前にしたら?と、みんなは言うけど「名前もおそろがいいの。」と『かめ』。

「あとさぁ。かめの水槽掃除したあと犬をシャンプーして、ブラッシングして、散歩連れてくんだ。そのあとでネコと遊んでぇ、金魚の水槽も掃除して、やることいっぱいあんの。」

「‥‥ふーん。」

「俺休み大好き。こうやっていっぱい世話できるもん。」

「ふーん。‥‥俺休み嫌い。予備校いかなきゃだもん。めんどくせぇ。」

「じゃぁサボっちゃえば?コウキみたいに。」

相変わらず手を忙しそうに動かしながらケタケタ笑う。

「‥‥‥サボろっかな。1回ぐらい。バレねぇだろう。」僕。

カメは目を丸くして僕のほうを向いた。

「マジで?俺知らないよ?怒られても俺のせいにしないでよね。」

「しねぇよ。そんなに器ちっちゃくないっつーの。」

「わかったわかった。‥で?中丸今から何すんの?」

「別に。親に見つからないようにそこらへんブラブラ。」

「ヒマ?」

「まぁね。」

「じゃあ手伝ってよ。」






予備校サボってカメの手伝いしてる僕。

罪悪感が全くないのはどういうことだろう。

都合のいいことにカメの両親は共働きでいないし、弟くんたちも遊びにいってて家にいない。

僕にとってはすばらしい条件だった。

「受験、大変?高校のときとは比べモノになんないでしょ。」

犬2匹を一緒に散歩させながらカメが聞いてきた。

「大変なんてもんじゃないって。命削られてるカンジ。」

「命。やっぱピリピリするもんなんだね。」

クスクス笑いながらチラッと僕を見る。

「最近中丸機嫌悪いじゃん。ストレス溜まってんの?」

「さぁ‥‥‥。」

そんなにわかってしまうものなのだろうか。

そんなに僕は不機嫌に見られているのだろうか。

「俺、やっぱり機嫌悪くみえる?」

「めちゃめちゃ。目つきがね、怖いよ。」

「そんなつもりはないんだけどなぁ。」

「ははっ。」

笑いながら犬とじゃれはじめるカメ。

「もしまた予備校とか行きたくなくなったらウチ来なよ。動物見てるとイヤな気持ちぜーんぶ吹っ飛ぶからさ。」

ボーっと立ち尽くす僕にカメは続ける。

「ウチあんま家には人いないから。好きなときにこればいいよ。あ、もちろん中丸の親にはチクらないから大丈夫。俺だって高校受験のとき中丸にお世話になったんだし。できることあったらなんでもするよ。」

思いがけないカメの言葉に戸惑う。

まさか僕がそんな言葉をかけてもらえるなんて思ってもいなかったし。

「ガンバレよ、受験。あと今日手伝ってくれてサンキュ。」

そろそろ予備校が終わる時間。

家の前でわかれた。

年下に励まされてどうすんだ。

そう思ったけど、やっぱり

嬉しかった。






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