あれから1週間。

毎日上田んちの前を通ったけどやっぱりいつもの古びたドアしか見えなかった。

だから僕もあれは夢だと信じるしかなかった。

リアルな夢だったけど。




でも、やっぱり夢じゃなかったんだ。




期末テストを1週間後に控えたこの日。

あろうことか僕は久しぶりに行った予備校にまた教科書を忘れてきてしまった。

「俺はアホか。」一人ツッコミを入れてみたりして。

嫌な予感はするものの、上田んちに行くしかない。

家の前に立ってもなにごともなかったので、インターホンを押すと、出てきたのは上田の母親。

「上田、いますか?」

「‥‥‥あぁ。そういえばまだ帰ってきてないわねぇ。」

まるで今の今まで気づかなかったような言いかただった。

だってもう夜遅いのに。おかしい。

嫌な予感は微妙に当たったのかもしれない。

「連絡とかないんすか?」

「それがないのよ。あの子にしては珍しく‥‥。」

「あー‥そうッスか。じゃあいいです。」

「ごめんなさいねぇ。」

ホントは少ーし、ってか結構気になった。

あの上田がこんな時間になっても帰らないこと、おばさんの言動、上田んちの事情。

前のテストでは赤点を2つも取っちゃって、余裕がないからこんなことしていたくなんてないのに。

僕の足は外に向かっていた。




しかし。

上田がいる場所なんてわかるはずがない。

仁たちや、上田のクラスのヤツに聞いてみたりもしたけど誰も知らなかった。

コウキなんて電話をとることさえしてくれなかった。

当の本人の携帯は電波が届かないとか電源が入っていないということを告げるメッセージだけが延々と続く。

「くっそ!教科書借りられねぇじゃん!」

マンションの近くの公園に来たところで思わず叫んだ。

と、その時。

また1週間前に戻ったかと思った。

目をつぶった瞬間にぼんやりと上田の姿が頭の中に浮かんだのである。

僕が見たこともないような場所。

でも確かに上田はそこにいる。

自然に動き出す僕の足。

確実に上田の居場所に向かっていると直感した。






最寄の駅から電車で20分。終電に限りなく近いこの時間帯。

同じ車両に乗っていたのは、仕事帰りのサラリーマン2人と、あからさまにイチャつくバカップル、そして僕の5人だけだった。

そのおじさんたちも電車が進んでゆくにつれ降りていき、終点までにはまだあるのにいつのまにか僕1人になっていた。

人影もほとんどなく、ひっそりとした駅のプラットホーム。初めて降りた駅。

改札口の向こうに見覚えのある顔があった。

上田発見。

1人ポツリと小さいベンチに座っていた。

「‥‥上田?」

声をかけてみると、けだるそうに顔を上げてあんぐりと口をあけた。

「なんでいんの?」

上田の目がパチクリしてる。瞬きの回数が異常に多い。

「じゃなくて何でおめぇはここにいんだよ。」

「何で中丸がいるの。」

「俺が聞いてんだ。」

「よくココわかったねぇ。」

たぶんこの人、事の重大さわかってない。

「お前が連絡とかしないでこんな遅くまで帰んないなんて初めてじゃん。おばさんとか心配してんじゃん?」

「あの人僕の事なんか気にかけてないでしょ。」

やっぱり、上田んちにはなにか事情があるらしい。

でも、今はそんな場合ではない。

「なんで帰んないの。」

「それがさ、おサイフ落としちゃったんだよね。お金なくて帰れなくてさ。」

「連絡ぐらいしろよ。」

「携帯充電切れた。」

まるでコントのよう。

そして上田の質問も突然だった。

「ねぇなんで中丸僕がココだったわかったの?中丸ココ知らないでしょ?」

「あ。」




云うべき?云わないべき?






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