「‥‥‥あ。」

学校のカバンをあさりながらポツリ。

サボったんだから少しは勉強しろよ、と僕の真面目な部分がささやく。

あの後いつも通りの時間に家に帰った僕は、その声に素直に反応して机に向かった。

なのに肝心な教科書が見当たらない。

「くっそー。学校かよ。」

せっかくやる気になった僕を脱力感が襲う。

しょうがない。上田にでも借りに行くか。


玄関の扉を開けると3m先には上田家の扉。

「めんどくせぇよぉ‥‥。」なんて独り言を言いながら上田んちの前へ。

インターホンを押そうと顔を上げた瞬間、違和感を感じた。

「‥‥‥は?」

すっごいアホ面だったと思う。

だってすっごい驚いた。

みえるんだ。

上田んちの家の中が。

ドアなんて開いていないのに。

昔から入れてもらえなかった上田家。

同じマンションなんだから僕んちと間取りはもちろん同じ。

家具の位置とかは違ってもだいたいの部屋の位置とかは一緒。

それがみえるだけならまだよかった。

ただ。何かが違った。

リビングでは家族4人がそろってテレビを見ている。

父親、母親、ばあちゃん、そして上田。

でも。何かが違った。

確かにリビングにいるのは4人なのに、みんなは3人しかいないようにふるまっている。

なんだか上田が存在していないかのようにみえた。

無視とかじゃなくて、上田そのものがいないように。

混乱はおさまらない。

なのに僕の右手は勝手にインターホンを押しやがった。

心の準備なんて出来てないのに。

押した瞬間、ドアはいつもの古くさいこげ茶色のドアに戻っていた。

もうみえない。

「中丸。」

出てきたのは上田だった。

「あ、お、おぅ、うん。」

僕はキョドっているらしい。

「なに?おもろい。」

「あ、いや‥‥その‥‥。」

「落ちつきなよ。」

上田は笑いながら玄関から出た。

僕は深呼吸。

「どうしたの?」

「きょ、教科書。貸して。化学の。」

「なに。学校に置いてきた?」

「うん‥‥。」

「ははっ。ちょっと待って。」

そう言ってもう1度家の中に入っていった。

めずらしいよ。僕がこんなにキョドるのなんて。

だって信じられない。ありえないことが起きたんだよ。

心臓がすっげぇバクバクしてる。

「お待たせ。はい。」

いつもと変わらない上田がそこに立っている。

さっきのは一体なんなんだ。

「‥‥サンキュ。」

「なんか今日中丸おかしいよ?」

「なんでもねぇよ‥‥。」

「そーお?んじゃいいや。教科書それだけでいい?」

「うん‥‥。」

「じゃ、がんばってね。おやすみ。」

「あ、待っ‥‥‥」

思わず呼びとめてしまった。

さっきのこと、言うべきか。言わざるべきか。

「中丸?」

「‥‥ごめん。やっぱなんでもない。」

「ふーん。」

きっと彼はわかっているだろう。

僕が何を言いたいのか。

でもコイツのことだから「中丸が言ってくれるときになったら聞く。」っていうに違いない。

便利なチカラを持ってるよ、まったく。

「なんでもない。じゃあな。」

僕は急いで家の中に戻った。






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