やっぱり、バレてた。

予備校サボったこと。

時間的にはいつもより遅目に帰ったはずなのに、おかしいなって思ったけど。

親に連絡がいっていたらしい。

家に帰ると母さんがツノをはやして待っていた。

「予備校、行かなかったの?」

少し怒ったような口調で問いただす。

「いいじゃん、別に。1回ぐらい。」

僕はそんな母さんの脇をすり抜けて玄関にあがった。

「別にじゃないわよ。あそこ、お月謝高いんだから。あまり休まないでちょうだい。それに今日休んだらまた解らないところとか出てくるんじゃないの?ねぇ雄一。大丈夫なの?」

「‥‥大丈夫だって。」

「でも‥‥。」

「うるせぇよ!!」

しつこく聞いてくる母さん。

思わず持っていたカバンを投げつけた。

テキストとか、ノートとか、参考書とか。

たくさん入ってるカバン。そうとう重いと思われる。

それは母さんのわき腹あたりに当たって床に落ちた。

痛そうに顔をしかめてその場にうずくまる。

‥‥そんなに痛かったのだろうか。

「ごめ‥‥」

言いかけて気づく。

謝る必要はないんじゃないか。

予備校サボっただけだもん。

みんなやってることだ。

コウキだって。予備校の他のヤツらも。

僕だけが悪いわけじゃないんだし。

「‥‥予備校行くか行かないかなんて、俺の勝手だろ‥。」

ボソッとつぶやくと落ちているカバンにバラまかれたノートとかを押しこんで自分の部屋に閉じこもった。






翌日。

のん気に居間で家族と朝食を食べる気なんてしなくって。

母さんのいる台所を素通りして玄関へ。

「雄一。朝ご飯は?」

「‥‥‥。」無視してみる。

「‥‥あ、お弁当。今日は雄一の好きな唐揚げ入ってるのよ。」と、笑顔を作って差し出された。

「いらない。」

「‥‥‥そう。」

即答したら、一瞬悲しそうな顔をして弁当を下げた。

それも無視して僕は玄関を出る。

すると、

「雄一。」

後ろから呼びとめられた。この声は

「お弁当、持っていきなさい。」

父さんだ。

「いらないって。」

「昼食はどうするんだ。」

「学校に食堂ある。コンビニとかでも買うし。」

「栄養偏るだろ。せっかく母さんが作ってくれてるんだから、ちゃんと持っていきなさい。」

「食堂のがうまいんだよ。」

「雄一。」

「‥‥‥。」

新聞越しに僕を睨む父さん。

これだから父さんは嫌いなんだ。

僕たちのこと、何もわかってないくせに自分の考えで人を動かそうとするから。

反発してやりたいのにできない。

僕は弱い。情けない。

「‥‥持ってくだけだから。」

机の上の弁当箱を引っつかむと玄関に向かう。

玄関前で妹とぶつかった。いきなり出てくるから。

「ごめ‥‥」

瞬間に顔が強ばる妹。

むかつく。

奥の部屋の半開きになったドアからはもう一人の妹がそっと覗いている。

まるで事故現場に遭遇したみたい。

むかつく。

父さんも母さんも妹たちも、みんなむかつく。

みんな嫌いだ。






今日の朝。僕が下に行くともうみんなは来ていた。

「中丸遅ぇよ。」

いつも最後の仁が言う。

てめぇには言われたくねぇよ。

「コンビニ寄る時間なくなっちゃうじゃんかよー。」

「いつもはお前が1番遅いんだろが。」とコウキ。ナイス。

「だってオレあの弁当だけじゃ足りないんだもん。健全な高校男子はいっぱい食べなきゃ。でもこう毎日いろいろ買うとさすがに母ちゃん金くれなくなるんだよね。はぁ。ひもじい‥‥。」

「‥‥‥。」

僕の中に小さな罪悪感がうまれる。

罪悪感というか一つの考え。

「仁、これやる。」

僕は自分の弁当を差し出した。

仁の顔がさっと明るくなる。

「え!?マジでいいの!?もらっちゃうよ?」

「いいよ。」

「でも中丸どうするんだよ。」

「食堂で食べる。」

「ふーん。じゃあありがたくいただくね。」

僕は弁当箱が仁の手に渡っていくのを見ながら母さんを思い浮かべた。

知ってるんだ。

僕が母さんの弁当を食べなくなってから、毎日5時前から起きて必死に僕の好きそうなものを選んで作っていること。

高校生の男の子ってどういうもの食べるの?ってカメとか田口の母さんに聞いていることも。

だからあえて食べないんだ。

そんなたかが弁当に手間暇かけてほしくない。

普通に冷凍食品でうめつくされたやつでいいのに。

いつもそういう弁当の人から見れば羨ましいかもしれない。

でも僕にはそれは飾られた愛情にしか見えない。

だから。仁にあげようと思ったんだ。

僕の、親孝行に見せかけた小さな反発。






昼は食堂で唐揚げ定食を食べた。

食堂のは母さんのと違って僕たち世代が好みそうな味になっている。

週に2回は食べるくらい唐揚げは好きだけど今日はまた一段とおいしく感じた。

多分罪悪感が少なかったからだと思う。

「まーた中丸くん唐揚げ定食食べてる。」

残しておいた最後の唐揚げを食べようとした時、後ろから田口が声をかけた。

「悪いか。」

「ううん。でもさっき仁くん中丸くんが渡してたの食べてたけどその中にも入ってたよ?」

「ふーん。」

唐揚げにかぶりつきながら、そういや朝母さんがそんなこと言ってたな、と思い出す。

「なんでお弁当食べないの?」

「‥‥‥。」

空いている僕の前の席に座りながら素朴な疑問を投げかける。

田口の質問に手が止まる僕。

考えるけどそれなりの理由が見つからない。

「食堂のが‥‥うまいし。」

下手なウソはつくもんじゃない。

僕は昔からウソをつくのは苦手だから。

「ふーん。僕は中丸くん家のお弁当おいしそうで好きだけどな。」

「あっそ。」

そんな言葉は聞き飽きた。

食器をまとめるとカウンターへ戻しに行く。

「あ、待って。」

急いでついてくる田口。

「やっぱさ、僕が言うことじゃないけど‥‥ちゃんと、食べてあげなよ。お弁当。」

「うっさい。だまれ。お前には関係ないだろ。」

「っ‥‥‥。」

田口は何か言いたげだったけど、見ないフリをした。

だって、僕だけが悪いことしてるみたいなんだ‥‥‥。






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