人間って生き物は、一度ラクなことを考えると努力なんてモノはしなくなるもんだ。

そして僕はその中の一人。

テストの答えがみれる。

そう思っただけで授業なんて聞いていられなくなってしまった。

連日の根詰めた勉強、ストレス、プレッシャー、変なチカラのこと。

日ごろの疲れがあふれ出て、その日の授業はほぼすべて爆睡。

「中丸が授業中寝るなんて珍しいじゃん。」

「去年なら当たり前のことだけどね。」

「雨でも降るんじゃねぇの?やっべー。俺今日、傘持ってきてねーよ!」

クラスの連中の失敬なお言葉。

たしかに2年生の僕は不真面目でした。授業は聞かない、提出物は出さない、成績は悪い、態度も悪い。

そんな僕が勉強中心の生活になるまでに変わってしまったのはやっぱり上田の存在。

「雄一、竜也くん国立受けるんですって。すごいわよねぇ。」

気づけば話にのせられていて、いつのまにか勝手に申し込まれた予備校に通ってて。

だから上田も母さんも嫌いなんだよ。




爆睡がたたったのか、担任の授業のあと呼ばれた。

「中丸、ちょっと来い。」

そういえば、3年生になってからの僕は真面目になったと思う。

呼び出しをくらったのも今年は初めて。

本当ならあまり喜ばしくないことなんだろうけど、このときばかりはラッキーだった。

職員室に行くと担任がタバコをふかしながら待っていた。

タバコを吸っている人を見ると父さんを思い出すから嫌なんだけど、この担任っていうのがまたタバコの似合う男なんだよ。

今、1番尊敬できる人間は誰?と聞かれたら僕は間違いなく「担任の先生」というだろう。

特別な理由はないけれど、出来た人間っていうのはこういう人のこというんだと思う。

もう定年近いじいちゃん。口が悪いからあまり好まないヤツもいるけど、僕が本音を出せるのは担任の前でだけ。

真面目になったのは、この人の存在もあったからかもしれない。

「珍しいな。中丸が寝てたの。」

「小山たちにも言われたよ。雨降りそう、つって。」

「そりゃおれも同感だ。お前最近がんばってるもんな。」

「まぁね‥‥。」

「何かあったのか?」

「‥‥‥。」

「テストの答えみるから勉強なんてしなくてもいいと思ったから。」なんて口が裂けても言えない。

「まぁ、一緒にいるのが上田じゃなぁ。あいつとお前じゃエベレストと富士山ぐらい違う。でもまぁ気にせずに、試験の時は今のお前を全部出せよ。」

今の僕。

どんな僕?

「ホラ、予鈴なるから。さっさと帰れ。」

「うん。」

校舎全体に響き渡る予鈴のベルが今日は妙に体に響いた。

「‥‥‥ねぇ先生。」

「なんだ?」

「もうテストってできてんの?」

「おう。そこの棚の上に全部そろってるだろ。お前腐っても答案盗もうとかはするなよ?」

「ひっでぇ。そんなことしねぇよ!盗みなんかさ。」

「ははっ。そうだな。」

「俺そこまで腐ってないって。」

うん。盗みはしないよ。

盗みはね。






「お。中丸じゃん。」

振り向くとカメがいた。

手には携帯電話。

「それ、返してもらったんだ?」

「うん。いつもと同じパターンでね。バッチリ場所の確認もしといた。」

いたずらっぽくウインクとかしてみせる。

「‥‥キモ。」

「うるさいよ。それより中丸も呼び出し?こんなとこいるなんて。」

「まぁね。」

「テストの場所、オッケェ?」

「あー‥‥一応。」

「よし。じゃああとはコウキと仁だなー。」

「‥‥‥カメ。」

「ん?」

「なんでもね。」

「なんだよそれ。」

笑うカメ。

ホントは「やっぱやめよう」って言おうとした。

でも、担任を裏切るか、コイツらを裏切るかっていったら答えは選べない。

頭の中で、昔の僕と今の僕が闘っている。

僕はどうすればいい‥‥‥?






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